契約書がないまま進めるなら、文面1通で決めておく
知り合いからの紹介、チャットで始まった相談、「とりあえず作ってみて」。契約書を交わさないまま着手している案件は、珍しくありません。あとで困るのは契約書がないこと自体より、決めたはずのことが誰の記憶にも同じ形で残っていないことです。
ここでは、契約書の代わりにはならないという前提のうえで、Web制作フリーランスが着手前に1通だけ送っておく確認メールに何を書くかをまとめます。すでに作業が始まってしまった案件を、途中から文面に戻す型も入れます。
法的な効力の話はしません。目的はひとつだけで、あとで二人が同じものを読み返せる状態にしておくことです。
先に効いてくるのは「終わり」の定義がないこと
口約束でもめる場面を思い出すと、金額が争点になっていることは意外に少ないです。金額は数字なので、お互いの記憶が一致しやすいからです。食い違うのは、数字になっていない部分です。
この3つは契約書の条文の話ではなく、メール1通に書ける範囲です。だから契約書を用意できない案件でも手は打てます。
文面1通に入れる6項目
多く書くほど安心ではありません。相手が読んで「はい」と返せる長さを超えると、返信が来なくなり、記録が残らないという元の問題に戻ります。項目は6つまでに絞ります。
支払いの時期を書くかどうかは案件によります。書くなら「公開後◯日以内のお振込」のように日付の基準だけにして、金額の交渉と混ぜないほうが返信が早いです。
そのまま送れる確認文(着手前)
見積もりを送ったあと、作業に入る前に送ります。件名は「【確認】◯◯サイト制作の進め方」のように、依頼ではなく確認だと分かる形にします。
最後の一行が、この1通をただの説明から記録に変えています。返信が返ってきた時点が着手点です。
返信を待たずに「ご指摘がなければこの内容で進めます」と書く形もよく見かけます。進めやすくはなりますが、返事が一度も来ていない案件では、結局あとから「聞いていない」と言われる余地が残ります。沈黙を同意として扱っていいかはこちらで判断できる話ではないので、少なくとも一度は返信をもらうほうを選んでおくと、あとで読み返せる記録になります。
もう始めてしまっている場合
手を動かしてから「契約書がない」と気づくほうが実際には多いです。この場合、最初に戻す必要はありません。今が何番目かを確認する1通に書き換えます。
まだ制作の途中なら
「契約書を交わしていないので」とは書かないほうが話が早いです。書かなくても目的は達成できますし、相手に不信感を持たせる書き方は、返信をもらうという目的から遠ざかります。
公開が目前なら
この時点では範囲の話を持ち出すと公開が止まります。残り2点だけに絞ります。
「公開作業の完了をもって完了」の一行は、公開後に作業だけ続いて請求が宙に浮くのを防ぐために入れます。ここだけは、遅れて送っても効きます。
打ち合わせや電話で決まったことは、その日のうちに送り返す
口約束が残らないのは、約束したからではなく、その場に文字がなかったからです。通話のあとに短い1通を送るだけで、同じ内容が記録になります。
長い議事録は要りません。範囲が動いた点・日付が決まった点だけを3行以内で書きます。チャットでのやりとりが中心の案件でも、同じものをチャットに流しておけば十分です。スクリーンショットではなく文字で残すと、あとから検索できます。
口約束のままにすると、どこが問題になるか
よく出てくる言い方ごとに、あとで何が起きるかと、1通に入れておく一行を並べます。
| その場の言い方 | あとで起きること | 1通に入れる一行 |
|---|---|---|
| 「だいたいこんな感じで」 | 完成の基準が双方の頭の中だけになり、どこで終わりか決まらない | 本件は公開作業の完了をもって完了とします |
| 「とりあえず作ってみて」 | 発注が成立していたかが互いの記憶だけになる | ご返信をいただいた時点で着手いたします |
| 「急ぎでお願いします」 | 遅れの原因がどちら側だったのか、あとから辿れない | ご返答が◯営業日を超えた場合、超えた日数分公開日を後ろへ移します |
| 「あとはお任せで」 | 確認する人が決まらず、終盤に別の人の意見で戻る | ご確認は◯◯様にお願いします。他の方のご確認が必要な場合は事前に教えてください |
| 「お金のことは後で」 | 請求の時期が決まらず、公開後に言い出しにくくなる | お支払いは公開後◯日以内のお振込でお願いしています |
| 連絡が来なくなる | 終わってもいないのに実質終わっていて、片付けられない | ◯日ご連絡がない場合はいったん保留として扱います |
どの行も、相手を疑うための文ではありません。決まっていないことを決まっていないと分かる形にしているだけです。
文面1通では足りない範囲
ここを曖昧にしたままだと、1通で全部守れるように読めてしまいます。確認メールは記録を作るためのもので、取り決めそのものを置き換えるものではありません。下記は1通の中で軽く触れる話ではなく、契約書や専門家の領域です。
| 内容 | 扱い |
|---|---|
| 著作権や利用範囲の譲渡 | 1通で触れるなら「公開後の素材の扱い」程度まで。譲渡の取り決めは契約書の範囲 |
| 秘密保持(NDA) | 先方から提示されることが多い。こちらから求める場合は書面の形で |
| 責任の範囲・損害の扱い | 確認メールでは扱わない |
| 制作の一部を外部へ依頼する場合 | 事前に伝えておく。条件の取り決めは別途 |
| 支払われないときの回収 | やりとりの記録は役に立つが、進め方は専門家に相談する話 |
| 各種の制度上の取り扱い | この記事では判断しない。該当しそうなら専門家へ |
逆に言えば、1通で守れるのは範囲・回数・日付・連絡の4種類だけです。この4つはトラブルの入口としては一番多く、しかもメール1通で書ける部分なので、先に埋める価値があります。
返信がもらえないとき
確認メールを送っても返ってこないことはあります。ここでの判断はひとつだけ決めておけば足ります。
初回のやりとりの段階で前提をそろえておくと、この確認メールが短くなります。何を聞くかは Web制作の初回返信で、先に確認したい4項目、金額を先に聞かれたときは 「いくらくらいですか」に、その場でどう答えるか にまとめています。
着手後に範囲外の依頼が出てきたときの言い方は 範囲外の依頼に、追加料金をどう言うか、素材が届かずに止まるのを防ぐ側は Web制作で素材がそろわず止まるのを防ぐ、受け渡しリスト にあります。この記事は、その手前で何が決まっていることになっているかを文面に残す話です。
テンプレートとして固定して使う
この確認メールは案件ごとに書き直すものではありません。6項目の並びを一度決めて、対象と日付だけ入れ替えて使います。初回返信・ヒアリング・素材回収・着手前の確認フローを同じ形式でそろえたい場合は、依頼整理・初回返信キット(500円)にMarkdownのテンプレート一式が入っています。買い切りで、メールアドレスの登録はありません。
このページは着手前のやりとりを整理するための一般的な実務メモです。契約書の代わりになるものではなく、契約・法務・税務上の助言でもありません。文面の法的な効力や個別の事情については弁護士等の専門家にご相談ください。実際の取引条件は当事者間の取り決めに従ってください。
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